‘64年製 BMC モーリスミニクーパーS MkⅠ

“クーパーS”は、コンペティションシーンでの勝利を目的に作られた特別な存在だ。ここに登場する’64年式のクーパーSは、オリジナルの雰囲気を保ちながらも、当時のコンペティションカスタムを取り入れた、味わい深い1台なのである。
まるで長年連れ添ってきた相棒のような雰囲気が漂う
クラシックミニのなかでも、特別な存在であるのが“クーパーS”。アレック・イシゴニスによって生み出されたミニというクルマだが、その開発段階から協力していた自動車エンジニアであるジョン・クーパーにより登場したチューニングモデルがクーパーなのだ。これをベースに、コンペティションシーンでのさらなる活躍を目指して作られたのが“クーパーS”であり、現代でいえばエボリューションモデル的な存在だったのである。
そのクーパーSに、3台続けて乗り継いでいるのが、オーナーの森均さん。しかも、クーパーSの以前はイノチェンティ・ミニを所有していたということからも、走りを重視したミニ選びをしてきたのであろうことは想像するに容易い。事実、現在所有している’64年式のクーパーSは、随所に走りを意識したカスタムを実施している。前後に装着するスタビライザー、ネガティブキャンバーが付けられたフロントのウイッシュボーン、そして超軽量なマグネシウム製のミニライトホイールには、DANLOP RACINGのCR65 MARK V204というレーシーな10インチタイヤを履かせている。まさに’60年代のコンペティションシーンを彷彿させるスタイルに仕上げているのだ。そんな時代背景を重視したカスタマイズを行なっている森さんのクーパーSだが、エンジンは当時のワークスユニットの主流であった1293ccではなく、1370ccという現代の技術によって可能になった大排気量が与えられている。
左/ヒゲ付きグリルにオーバーライダー付きバンパーなど、いつ見ても飽きないフロントマスク。ヘッドライトはLUCAS、ボンネットバッヂはMORRIS COOPER Sが付く。右/フェンダーミラーは砲弾型のレイヨット。コンペティショナルなシーンでもよく見かける、定番のカスタムフェンダーミラーだ。垣間見られるサビは、長年愛用している証だ。
左/ホイールはミニライト。材質は軽量なマグネシウムでサイズは当然のことながら10インチ。これに履かせているタイヤはDUNLOP Racing CR65 MarkⅤ 204。右/ルームミラーは当時のワークスマシンと同じLUCASの608。良好な後方視界を確保することから古くから人気のアイテムだが、森さんはこれにワイドミラーを装着している。
左/ステアリングはパディ・ホプカーク製の小径レザー。インパネには9000rpmからレッドゾーンとなる、クロノメトリックのアナログタコメーターを追加している。右/レッド×グレーのデュオトーンのシートは助手席とリアに健在。ドライバーズシートはコブラ×LUKEの4点シートベルトへと変更されている。ワインディングやサーキット走行も十分楽しめるシートカスタムだ。
左/左右に備わるフューエルタンクゆえ、給油口も左右に存在する。森さんのクーパーSは、左右の給油口いずれもアストンタイプのレーシングキャップへと換装している。右/フューエルタンクは’66年までオプション扱いであった25L×2のツイン仕様。航続距離が大幅にアップすることからも、ラリーや耐久レースで重宝されたアイテムだ。

5ポートヘッドにSUツインキャブと、その佇まいはノーマル然としたエンジンだが、その実、排気量は1370ccまでアップされ、53°のカムも装着されている。

リアスタイルもMkⅠをキープ。低めの車高にセットされるスタビライザーは前後に装備し、さらにネガティブキャンバーにLSDという組み合わせにより軽快な走りを実現している。
History
サー・アレック・イシゴニスと友人関係にあり、自動車技術者であったジョン・クーパー。氏がチューンナップしてCOOPER を名乗るミニが登場したは’61 年のこと。そして’63 年には1071cc の排気量とした“クーパーS”がデビューし、’64 年には997cc のクーパーS を追加。これと同じくして、最速となる1275cc の排気量を持つクーパーS も登場。’67 年にはMk Ⅱへ、’70 年にはMkⅢへと発展し、’71 年の3 月までクーパーSは生産された。
Owner 森 均さん

27 歳のときに購入したイノチェンティ・ミニを皮切りに、Mk ⅢのクーパーS、そして現在のMk Ⅰへと乗り継いできたオーナーの森均さん。’60 年代当時のレーシングカスタムを実施しながら、オリジナルを逸脱しないモディファイを信条としている。