【Heritage Museum 】’65 AUSTIN MINI COOPER 1275S

’65 オースチン ミニクーパー 1275S

貴重なビンテージミニが新車のように蘇った。これまでの歴史を感じさせる味わい深い個体もいいが、まるで新車、いや新車以上のコンディションであると思わせる1台だ。これほどのクーパーSを作り出せるパーツの供給体制と修復技術、専門店としてのこだわりには敬服するばかりである。

徹底的に作り込まれたからこそ放たれる素材感とデザインが織り成す、優雅で温かい空気感が室内に漂う

 ミニ、それもビンテージミニの可能性をさらに深める、そんなクーパーSが遂に完成した。

 前号でも紹介した埼玉県の「ディープ」でフルレストアを施されていたMkⅠクーパーSが、完全に仕上げられたのである。どこを見ても新車以上ではないか、と思えるほどの美しいフィニッシュと、単に新品部品を集めて組み直しただけではない佇まいが実に印象的だ。

 オリジナルにこだわるところはこだわり、最新の部品に交換する部分は潔く取り換えてしまう。それも従来の常識とはちょっと異なる視点で、だ。それは品質面と、どう使われるかという乗り方を考えた判断によるもの。

 真紅に輝くボディは、アメリカPPGG社の塗料でペイント。ボディカラーはタータンレッドに、ルーフはオールドイングリッシュホワイトにリペイントされている。このカラーの組み合せはオーナーの好みで決めたのだが、それ以外の仕様やパーツのチョイスは、ディープの谷口代表に一任されたそうだ。

「長年オーナーが入れ替わるなか、いろいろな修理をされていたようで、あちこちにチグハグな部分がありました。そこでちゃんとしたMkⅠのボディにするために、各部に新品のボディパネルを使って作り直しています」(谷口代表)。

 単純にボディパネルごと剥がして交換するのではなく、しっかりしているオリジナルの部分は残して、歪みや不良修理による変形、腐食している部分を切り取り、その部分だけを新品パネルから切り取って丁寧に継いでいる。

 そう、10年経っても変化しないボディと塗装を実現するために、下地から完璧を目指して仕立てられているのだ。塗装の剥離やサビ、汚れの除去と同時に防錆被膜を形成するウエットブラストを使い、その効果が低下しないうちに下地塗装を施してボディパネルを保護。その上にカラーベースを塗装してクリア塗装を重ねている。新車当時のラッカー塗装とは耐久性も深みも光沢感も段違いのレベルとなっているのだ。

 ボディを手掛けた人物は谷口代表の鈑金職人時代の師匠にあたる方で、そこから谷口代表がパーツをひとつ一つ、丁寧に組み付けていって作り上げた、まさに作品とも言えるほどの出来栄えだ。

 エンジンも完全にオーバーホールされているのだが、ハプニングに対する対応もユニークなもの。シリンダーヘッドを剥ぐってみたところ、ピストンはノーマルサイズで、これまで本格的なオーバーホールはされていなかったことが判明。しかもシリンダーのボア間にクラックが入っていた。普通ならクーパーSブロックでも再使用を諦めるところだが、幸いクラックは深くなかったことから、ここはオリジナルにこだわった。シリンダー上面を5㎜ほど削り込み、それに合わせてピストントップの薄い国産車用ピストンを加工して組み合せている。

 その結果、クランクシャフトはもちろんコンロッドもオリジナルが使え(バランス取りなどの調整済み)、クーパーSユニットは完調を取り戻したのだった。

 そんな作業に対するこだわりとミニに対する愛情あふれる仕事で、超絶コンディションに仕上げられたクーパーS。憧れのクーパーSを手に入れたオーナーは、これからどのようにこのミニと付き合うのだろうか。その話はいずれまたご紹介しよう。

左/前席は当時のオプションだったハイバックタイプのリクライナーを装着。シートベルトも当時の純正アクセサリーとして用意されていたカンゴール製の3点式を装着し、当時の雰囲気と安全性を兼ね備えている。右/サイドから見たシートとステアリングの位置関係は想像以上に良好に見える。

左/大径な純正ステアリングは、ヒビ割れていたものをパテで埋めて塗装で仕上げた。見た目も質感も新品のようにしか見えない出来栄えだ。右/ラゲッジスペースも新品のトランクボードや左右の燃料タンクが収められている。また、トランクリッド裏側のボードも新品と、気持ちいいくらいに新品パーツが奢られている。

左/オーバルメーターは表皮が張り替えられており、スピードメーターはマイル表示。スミスのタコメーターは電気式で、このクーパーSに元々取り付けられていたものだ。右/純正のシフトノブとブーツも新品。シートの赤いレザーは、シボの深い当時の雰囲気を再現したニュートンコマーシャル製。

左/ゴールドブロケイドの質感の高さが分かるだろうか。リアのポケット回りの処理も実に丁寧で、新車当時の作り込みを再現している。右/フロアのカーペットやペダル、ヒーターなどもすべて新品だ。ペダルのブラケットなどは装着されていたものをブラスト処理して塗装し直している。

右/エンジンルームの綺麗さにも目を見張る。シリンダーやシリンダーヘッドは完全にオーバーホールされているだけでなく、古い塗装を完全に剥離して塗装し直している。これら以外はほぼ新品パーツが装着されている。左/SUキャブはオリジナルサイズの新品。ピストンカバーの光沢ぶりにも驚かされる。

左/インナーフェンダーとフロントサスペンションの美しさもさることながら、ミッションケースの美しさにはため息が出そうだ。再塗装の丁寧さと、ボルト類まで徹底して新品に交換したからこそ実現した美観だ。右/ホイール内側から覗くブレーキ回りも新品で構成。エンジンの後ろに見えるフロア下面の輝きぶりにも注目されたし。

右/リアサスペンションを見るとコイルサス+KYBのガスショックという組み合せであることがよく分かる。ハイドロからのコイル化のため、サブフレームも新品が装着されている。右/マフラーはクーパーS純正をモデルとして作られたRC40を装着。

右/オリジナルは生産年が刻まれたワイパーモーターだが、信頼性を重視して現代の新品に交換されている(写真右)。左/アッパータンクが四角い当時のデザインのラジエターではなく、冷却性を重視した国産のラジエターを装着。発電機もダイナモではなくオルタネーターが選ばれている。

左/リアクォーターガラスのフレームは新品の供給がないため、磨いて再使用。クロームの輝きは現在でも十分。中/ホイールはクーパーS純正の当時のホイールを完全剥離して粉体塗装で仕上げている。バンパーはすべてステンレス製の新品を使用。右/ビンテージミニならではのトランクハンドル/エンブレム/ライセンスプレート&ランプはすべて新品。仕上げがいいので、全体の雰囲気もとてもいい。